発足記念シンポジウム(2005年10月15日)
「未来志向のプライマリ・ケア−診療から経営まで」内容要約
開催場所:名古屋大学医学部鶴友会館
スピーカ:伴信太郎(理事長・名古屋大学総合診療科)
     木戸友幸(木戸医院)
     大石佳能子(株式会社メディヴァ・医療法人プラタナス)
     山本道雄(理事・春日井市松新地区再開発組合)
     永井幸寿(理事・トアロード法律事務所)
     増田泰之(監事・増田経営会計事務所)
司会進行:松村眞吾(副理事長・株式会社メディサイト)

基調講演(伴信太郎)
プライマリ・ケアは、今まで一つの専門領域として認識されてこなかった。 大学でも卒後研修でもプライマリ・ケア教育はなかった。
プライマリ・ケアの能力は初期研修で身につける基盤能力とイコールではない。 救急医療とも類似であるが医療を行なう状況は違う。
心の問題が係わるなどの状況がある。 プライマリ・ケア医は患者・家族・地域を包含する総合する専門医である。 市民もまた専門医としてのプライマリ・ケア医を知らない。 細分化専門医を喧伝するメディアの影響もある。 地域の住民と共に、身近にいる、住民のための「プライマリ・ケア専門医」を育てていく、 そんな活動をしていきたい。

講演「開業医として、教育家として」(木戸友幸)
アメリカ・レジデント留学、パリでの邦人診療などの理想のプライマリ・ケア実験を経て 1997年より街の家庭医として診療に携わっている。
また診療所研修のPC-FNネットワークの一員としてプライマリ・ケア医育成のための診療所研修などを行なっている。
2004年の初期研修制度から診療所研修依頼は増えており、教育への気持ちをかき立てている。 プライマリ・ケア研修は病院では出来ない。診療所でしか出来ないことがある。 診療標準化は当たり前であり、軽装備開業→こちらから働きかけていく地域連携→介護を 含めた地域医療資源の活用→次世代プライマリ・ケア医の育成が活動テーマである。 患者とのコミュニケーション技術、地域との交流、在宅医療実践などを見せていくことにより プライマリ・ケア医を育てていく。

講演「新時代のクリニックとは?」(大石佳能子)
患者がクリニックに求めるもの、それは「医療+サービス」である。
医療としての基本価値は当たり前のことであり、利便性や雰囲気といったものが付加価値として必要である。
患者の「わがまま」に答えられるか?を問いたい。
5年前から用賀アーバンクリニックなどで医療+サービス業として長時間の診療時間設定、 家庭用家具を置くなど雰囲気重視、プライバシー重視、相談・専門への紹介機能付加などを試みてきた。 これをさらに専門クリニック、病院、地域へと広げていき、地域のファミリードクターのネットワークを つくって行きたい。目指すはPHD(パーフェクト・ホームドクター)。 人材・システム・カネなどのインフラ整備を行なって「あんなこと、こんなことが出来ないか」に応えて行きたい。

講演「地域住民の視点−期待するものは何か」(山本道雄)
私的経験から話す。思い込みがあって母親のがん発見が遅れた。
本当に近い関係のかかり付け医を持っていたら、もっと早く発見できたかもしれないという思いがある。
街のチェーン大型店でない電器屋が繁盛しているという話がある。店とお客さんとの密接な関係があるからという。
世の中の発展の中で、商店とお客さんの身近な関係が失われた。同じことが医師と患者の関係にもあるのではないか。
再開発計画事業を進めるに当り、医療モールを計画している。
それは「わが街のお医者さん」「親身になってくれるお医者さん」を期待するものである。 地域のプライマリ・ケア実践の場となることを期待したい。


講演「法律からみる医療事情」(永井幸寿)
医療事故訴訟の傾向を見ていくと医師の裁量権が狭まってきたといえる。
患者の自己決定権が法理となってきた。患者勝訴率が87年の18%から近年は40%に上がってきている。
そもそも診療とは医療契約である。その契約債務は病気を治す義務ことではなく、適切な診療行為をすることを目的とする。
その時点での医療水準に適う医療行為を施すよう努め、出来ない時は他の医療機関に移す義務(転医義務)がある。
診療時点での一般的医療水準とは大学病院でも診療所でも同じと見做される。 普及に少しだけ時間がかかるだけで診療所でも同じ水準が要求される。 開業医でも重大な病気を見落とさないことが欲求される。 だからプライマリ・ケア医教育が重要となるのである。

講演「赤ひげにも先立つものは必要−お金の話」(増田泰之)
開業するには人・モノ・金・情報といった経営資源が不可欠である。
理想と現実の間にはギャップがある。医療もまた「事業」であることを認識しなければならない。なぜか。 医療には公共性、社会性がある。つまり継続性が必要なわけであり、医療機器の更新投資もある。
金が回っていく仕組みがなければならない。ゴーイング・コンサーンであることが望まれている。 近江商人の言葉に「三方良し」がある。売り手良し・買い手良し・世間良し、の精神である。 良い医療がある→地域が良くなる→世間が良くなるという流れがある。 またBSCという経営法では理念に基づく顧客視点、財務視点、業務プロセス視点、学習の視点をいう。 要はバランスである。バランスを考えて経営していかなければならない。

パネル・ディスカッション(コーディネート:松村眞吾)

プライマリ・ケアの最大の問題・課題は何か
(木戸)患者の立場に立つということである。
(大石)当たり前のことを当たり前に行う、これが出来ていない。
(伴)プライマリ・ケア医としての能力=医師としての基盤能力ではないということの認識を壊していくこと、 そして地域住民の声をどう組織していくか、である。
(山本)総合的に診て欲しい。医師間の連携を図っていくことを望む。
(永井)広く浅くではなく、重要なことについては深く、ということ。 長い付き合い、関与が最も重要である。カウンセリング機能も大切だ。
(増田)バランスを考えること。マクロで見ながらミクロを把握する、見抜ける能力を養うこと。 そして信頼関係であろう。
(会場から)
麻酔科から内科に転科して、精神的なものの重要性を勉強するようになった。 風邪一つにもストレスが反映されていることもある。 25%はそんな患者であり、コミュニケーション能力や新しい薬剤の知識が必要である。臨床での研修が重要。

NPO活動への期待
(会場から)
 NPO活動から具体的にどんな成果を生み出していこうとしているのか。
(伴)プライマリ・ケアは開業医の「個人営業」に依存しているのが現状であり、質の格が問題である。
現場での人・モノ・金・情報を共有化する仕組みを、構想中のモデルクリニックの成果として共有していければと考える。
(大石)プライマリ・ケア医を支援するインフラが必要である。 クリニックはコンビニ程度の大きさであり、一人で頑張っても限界がある。 情報共有化、共同購買、共同事務長(人材共有)などを図っていかなければならない。

プライマリ・ケア医の資質
(会場から)
 総合診療科での動機付けとは何か。何か職人的なものを感じる。 プライマリ・ケア医育成のシステムは存在し得るのか。
(伴)臓器を選ばない医療がある。実際にはそういった病気が多く、そこに総合診療の存在意義がある。 個人的資質としては「見逃さない」という技術+キチンと診られるということは求められる。 臨床経験が必要だ。
(会場から)
 キチンとした指導医の存在が重要である。そこで経験を積む、多くの症例を経験するということしかない。 CTにかける前に病歴チェックが大事というマインドが望まれる。
(永井)最新医学の知見の普及速度は速い。だから重篤な病気を見落とすことは許されない。
(伴)専門医の領域を侵すなという意見があった。 しかし「見落とさない」ということにジェネラルな教育の重要な意味がある。
(木戸)萎縮することもない。連携はそのためにある。
(山本)医療モールが出来ても、バラバラで医師間の連携がなければ意味がない。安心がない。

理想と現実
(会場から)
 海外で理想のプライマリ・ケアを学んで帰国後、文化やシステムのギャップをどう乗り越えたか。
(木戸)最初は違和感があった。しかし1ヶ月もすればなくなった。スタートは日本だったわけだし、 異文化体験を活かせる場もある。

NPOの課題
(伴)プライマリ・ケアは医師だけのものではない。 看護師、事務、さらに地域への拡がりを作っていかなければと考えている。
(松村)議論を纏めていくと、一つは重篤な病気を見落とさない、見逃さないということが プライマリ・ケアの大きなテーマとして浮かび上がる。 「そこに行けば、取りあえず何とかなる」医療機関を、地域住民はニーズとして持っている。 診断が出来なくても、適切に判断して適切な専門に送ってくれる、 そんな存在が必要であり、エビデンス(根拠)あるプライマリ・ケアの育成・普及が望まれている、といえる。
(伴)プライマリ・ケア医を育てていくシステム、そして地域の声も反映される仕組み、そういったものをNPOで作って行きたい。 モデルクリニックの構想も進行中であり、 これが実現すれば、プライマリ・ケアのロールモデル(手本となるモデル)を作っていける。 そうしてプライマリ・ケア医、プライマリ・ケアそのものを育てていくシステムが出来ていく。 このNPOで、そういったことをやっていきたい。

以上 文責:松村